ここでは、銅版画でよく使う技法と道具にについて解説していきます。
主な技法には何があるか?
〇ドライポイント
銅版をニードルなどで直接描画する。
版材より硬いものなら、なんでも描画用具として
使うことができ、引っ掻く、突く、転がすなどして
イメージを版に刻んでゆく。
彫った時にできるまくれにインクが絡み、
滲んだような独特な表情をみせる。
即興的に描画することにより、
自由な表現が得られる。
プレス機で刷る度に、線のまくれが潰れてゆくのが難点。
クロームメッキを施すことで、
エディションを刷ることができる。
池田万寿夫が、優れたドライポイントを、たくさん残している。
![](https://i0.wp.com/crea-douhanga.pepper.jp/wp-content/uploads/2017/01/P1013047-219x300.jpg?resize=400%2C548)
池田万寿夫「女・動物たち」1960年
〇エッチング
最初は、金属細工師が、武器の金属部分を
装飾するために行った、酸による腐蝕彫刻法。
16世紀初頭、イタリアが起源。
版に、グランドという防食膜をつくり、
ニードルなどで描画する。
その後、塩化第二鉄や硝酸で、腐蝕する。
最もポピュラーな技法で、ペンによる素描的な
線が特徴。
エッチングの線の強弱は、描画時の筆圧、
腐蝕時間の長短、腐蝕液の濃度、種類によって
変化し、多様な表現ができる。
![](https://i0.wp.com/crea-douhanga.pepper.jp/wp-content/uploads/2017/01/ピカソエッチング-300x205.jpg?resize=590%2C404)
ピカソ「ミノトーロマシー」1935年
〇アクワチント
18世紀の後半、考案される。
スペインの作家ゴヤは、エッチングとアクワチント
を駆使して、版画集「ロス・カプリーチョス」を
制作した。
アクワチント技法は、版に松脂粉末をふりかけ、
裏から、加熱固着させ、腐蝕液につける。
松脂粉末を塗布した所が、防蝕膜の役目を果たし、
塗布しなかった所のみが腐蝕される。
松脂の粗密、腐蝕時間の長短により、広い面積で
灰色から黒まで水彩画のような諧調が得られる。
![](https://i0.wp.com/crea-douhanga.pepper.jp/wp-content/uploads/2017/01/ゴヤ・カプリチョーザ-198x300.jpg?resize=400%2C607)
ゴヤ 版画集「カプリチョス」39番・1799年
〇メゾチント
17世紀、オランダが起源。19世紀初頭、
写真術の出現により衰退するが、
19世紀末頃から、近代的表現によって、
復興してきた技法。
静謐なモチーフを好んで表現した長谷川潔や、
多版によるカラーメゾチントの、
浜口陽三の功績は大きい。
メゾチント技法では、美しいビロードのような黒が得られる。
ベルソーという鋸刃状の刃を持つ道具を用いて、
刻線で縦横斜めから目立てをして、
版面をザラザラの面にする。
それをスクレーパーやバニッシャーを使い、
まくれ部分を削り取ることで、描画してゆく。
平らに磨くほど、その部分は白に近づく。
明暗濃淡の諧調で画面を作ってゆく技法で、
直刻法。
目立ても磨きも手間のかかる作業で
根気が必要だ。
![](https://i0.wp.com/crea-douhanga.pepper.jp/wp-content/uploads/2017/01/P1013050-300x218.jpg?resize=590%2C428)
長谷川潔 「砂漠と薔薇の海の星」1964年
〇ルーレット
先が歯車になった工具を使い、
版面に転がし、凹凸をつける。
〇エングレービング
15世紀初頭、金属細工技法として発展した。
道具は、スクレイパー、ビュランという刃物
を掌の中に入れて、押すように用い、
直接版面を彫ってゆく。
彫った溝の断面にまくれが出来るので、
スクレーパーで削りとる。
非常に、鋭く繊細な線表現を求めることができる。
![](https://i0.wp.com/crea-douhanga.pepper.jp/wp-content/uploads/2017/01/えんぐれーびんぐ-300x204.jpg?resize=590%2C402)
門坂流 「山峡」1988年
〇フォトグラビュール
版に特殊な加工を施し、画像を焼き付ける。
コンピューターの普及に伴い、
さまざまな画像処理をしたイメージを
版に焼き付け制作する作家が
増えてきた昨今である。
下の写真は、当工房でのフォトポリマー版画一日体験者の作品です。
![](https://i0.wp.com/crea-douhanga.pepper.jp/wp-content/uploads/2017/01/1フォトエッチング-1-223x300.jpg?resize=400%2C538)
Nさん・2016年
〇ソフトグランドエッチング
通常のグランド(防蝕膜)に、サラダ油などの
油分を、少量加えたものを使用。
版にソフトグランドをかけ、乾かしたあと
紙を載せ、上から鉛筆やペンテルで描画する。
その後腐蝕する。
ハードグランドとは異なる、柔らかいタッチの
描線が特徴だ。
紙を、木炭紙やトレシングペーパーなど
変えて描いてみても面白い。
また、このソフトグランドを使い、
葉脈やレース模様を銅版に写し取ることも
可能だ。
![](https://i0.wp.com/crea-douhanga.pepper.jp/wp-content/uploads/2017/01/P1013049-300x225.jpg?resize=590%2C443)
山本蓉子「アポリネール動物詩集」評論社
1991年
〇リフトグランド
シュガーチント技法ともいう。
ビンの中に、砂糖水、アラビアゴムを入れ混ぜ、
墨汁を入れたものを熱すると、
ドロドロの液体ができる。
これで、版のうえに直接、筆などで描いた後、
グランドを流し引きし、乾かす。
その後、バットに入れたお湯の中に版を浸し
揺すると、筆で描いたとおりに膜が剥がれる。
そして腐蝕する。または、アクワチント後
腐蝕。
インクを詰めて、刷ってみると、描いたとおりに
絵柄が現れる。
墨汁を入れたり、熱したりを省く場合もある。
アラビアゴムや、砂糖の代わりに、
白いポスターカラーでも同じようなことが可能。
※上記の技法は、主なものだけで、
その他にも、多様な技法が ある
製版に必要な、主な工具
![](https://i0.wp.com/crea-douhanga.pepper.jp/wp-content/uploads/2017/01/gihou.jpg?resize=720%2C521)
- ニードル・・・ 描画する鉄筆
- スクレーパー・・・ 版を削る
- バニッシャー・・・ 版を磨き、修正、中間の調子を作る
- ビュラン・・・ 直刻刀
- ルーレット・・・ ハーフトーンをつける歯車
- ベルソー・・・メゾチントの原版を作る
- 鉄ヤスリ・・・プレートマークを作る