主な銅版画の技法

ここでは、銅版画でよく使う技法と道具にについて解説していきます。

主な技法には何があるか?

〇ドライポイント

銅版をニードルなどで直接描画する。

版材より硬いものなら、なんでも描画用具として

使うことができ、引っ掻く、突く、転がすなどして

イメージを版に刻んでゆく。

彫った時にできるまくれにインクが絡み、

滲んだような独特な表情をみせる。

即興的に描画することにより、

自由な表現が得られる。

プレス機で刷る度に、線のまくれが潰れてゆくのが難点。

クロームメッキを施すことで、

エディションを刷ることができる。

池田万寿夫が、優れたドライポイントを、たくさん残している。

池田万寿夫「女・動物たち」1960年

〇エッチング

最初は、金属細工師が、武器の金属部分を

装飾するために行った、酸による腐蝕彫刻法。

16世紀初頭、イタリアが起源。

版に、グランドという防食膜をつくり、

ニードルなどで描画する。

その後、塩化第二鉄や硝酸で、腐蝕する。

最もポピュラーな技法で、ペンによる素描的な

線が特徴。

エッチングの線の強弱は、描画時の筆圧、

腐蝕時間の長短、腐蝕液の濃度、種類によって

変化し、多様な表現ができる。

ピカソ「ミノトーロマシー」1935年

〇アクワチント

18世紀の後半、考案される。

スペインの作家ゴヤは、エッチングとアクワチント

を駆使して、版画集「ロス・カプリーチョス」を

制作した。

アクワチント技法は、版に松脂粉末をふりかけ、

裏から、加熱固着させ、腐蝕液につける。

松脂粉末を塗布した所が、防蝕膜の役目を果たし、

塗布しなかった所のみが腐蝕される。

松脂の粗密、腐蝕時間の長短により、広い面積で

灰色から黒まで水彩画のような諧調が得られる。

ゴヤ 版画集「カプリチョス」39番・1799年

〇メゾチント

17世紀、オランダが起源。19世紀初頭、

写真術の出現により衰退するが、

19世紀末頃から、近代的表現によって、

復興してきた技法。

静謐なモチーフを好んで表現した長谷川潔や、

多版によるカラーメゾチントの、

浜口陽三の功績は大きい。

メゾチント技法では、美しいビロードのような黒が得られる。

ベルソーという鋸刃状の刃を持つ道具を用いて、

刻線で縦横斜めから目立てをして、

版面をザラザラの面にする。

それをスクレーパーやバニッシャーを使い、

まくれ部分を削り取ることで、描画してゆく。

平らに磨くほど、その部分は白に近づく。

明暗濃淡の諧調で画面を作ってゆく技法で、

直刻法。

目立ても磨きも手間のかかる作業で

根気が必要だ。

長谷川潔 「砂漠と薔薇の海の星」1964年

〇ルーレット

先が歯車になった工具を使い、

版面に転がし、凹凸をつける。

〇エングレービング

15世紀初頭、金属細工技法として発展した。

道具は、スクレイパー、ビュランという刃物

を掌の中に入れて、押すように用い、

直接版面を彫ってゆく。

彫った溝の断面にまくれが出来るので、

スクレーパーで削りとる。

非常に、鋭く繊細な線表現を求めることができる。

門坂流 「山峡」1988年

 

〇フォトグラビュール

版に特殊な加工を施し、画像を焼き付ける。

コンピューターの普及に伴い、

さまざまな画像処理をしたイメージを

版に焼き付け制作する作家が

増えてきた昨今である。

下の写真は、当工房でのフォトポリマー版画一日体験者の作品です。

Nさん・2016年

〇ソフトグランドエッチング

通常のグランド(防蝕膜)に、サラダ油などの

油分を、少量加えたものを使用。

版にソフトグランドをかけ、乾かしたあと

紙を載せ、上から鉛筆やペンテルで描画する。

その後腐蝕する。

ハードグランドとは異なる、柔らかいタッチの

描線が特徴だ。

紙を、木炭紙やトレシングペーパーなど

変えて描いてみても面白い。

また、このソフトグランドを使い、

葉脈やレース模様を銅版に写し取ることも

可能だ。

山本蓉子「アポリネール動物詩集」評論社

1991年

〇リフトグランド

シュガーチント技法ともいう。

ビンの中に、砂糖水、アラビアゴムを入れ混ぜ、

墨汁を入れたものを熱すると、

ドロドロの液体ができる。

これで、版のうえに直接、筆などで描いた後、

グランドを流し引きし、乾かす。

その後、バットに入れたお湯の中に版を浸し

揺すると、筆で描いたとおりに膜が剥がれる。

そして腐蝕する。または、アクワチント後

腐蝕。

インクを詰めて、刷ってみると、描いたとおりに

絵柄が現れる。

墨汁を入れたり、熱したりを省く場合もある。

アラビアゴムや、砂糖の代わりに、

白いポスターカラーでも同じようなことが可能。

※上記の技法は、主なものだけで、

その他にも、多様な技法が ある

 

製版に必要な、主な工具

  • ニードル・・・ 描画する鉄筆
  • スクレーパー・・・ 版を削る
  • バニッシャー・・・ 版を磨き、修正、中間の調子を作る
  • ビュラン・・・ 直刻刀
  • ルーレット・・・ ハーフトーンをつける歯車
  • ベルソー・・・メゾチントの原版を作る
  • 鉄ヤスリ・・・プレートマークを作る